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本展は、名古屋造形大学・大学院特任教授の江本菜穂子氏の企画協力による所蔵企画展です。
パウル・クレーをはじめ西洋近代美術史を専門とする江本氏とともに選出した約60点の作品。「光と影が語ったもの」というテーマのもと、クレー《デモーニッシュなマリオネット》、カルダー《ゴルファー(ジョン・D・ロックフェラー)》、宮崎進《沈黙》の初公開コレクションを含む作品たちは、私たちにどのような気づきを与えてくれるのでしょう。メナード美術館の20世紀西洋絵画を中心とするコレクションを、いつもとは異なる視点でご覧いただく機会となっております。
※ 8/5・19に一部展示替えを行います
光のゆらめきに影が幾層にもゆらめく。
刻々と変わる光に影は変化する。
あまりに強い光に目がくらんだり、深い影に光を忘れたり。
本来光と影は一対のものであるのに、
時としてどちらかを見落としてしまってはいないだろうか。
「光」と「影」はさまざまな意味を含む言葉です。
今回のメナード美術館での展覧会は、「光と影が語ったもの」というテーマで、この光と影が錯綜する人間の営みをさまざまな観点から作品を通して浮かび上がらせました。
社会の繁栄の表と裏、人間の内面に潜む心の動き、光学的な光と影…その意味するところは深く複雑です。
情報が溢れ、価値観が多様化し、ともすると指針を見失いがちな今だからこそ、ふと立ち止まって現代にもつながる忘れてはならないものを探しに来ていただけたらと思います。
江本菜穂子(企画協力)
〈江本菜穂子 プロフィール〉
名古屋造形大学・大学院特任教授。美術史家。名古屋大学大学院博士課程満期単位取得退学。
西洋近代美術史、特に19〜20世紀初頭の絵画を中心に、その時代と文化の関係を研究。
また、美術評論や展覧会企画を手がけるのみでなく、一般向けの講義などによって、より多くの人に美術の魅力を伝える取り組みも行なっている。
展示構成
都市の輝きと隠された影
娯楽/労働
華やかな都市に根付く娯楽文化。しかし、その影には人々の労働があります。
娯楽と労働は、対極にあるようで時に重なり合い、循環しているのではないでしょうか。この二つの関係を探ることは、人の内側にある「光と影」を見つめることと繋がります。私たちにとって光とは何で、影とは何なのか…、作品を通して考えます。
- フェルナン・レジェ《4人の自転車のり》1945
- フィンセント・ファン・ゴッホ
《一日の終り(ミレーによる)》
1889~90
視えないもの/視えてくるもの
私たちは、眼を通る光の情報でものを「みる」ことができます。
光の中で見えるもの、暗闇に浮かびあがるもの…光の変化により、ものはさまざまな見え方をします。そして時に、私たちは聖的なものを心の眼で見ることもあります。
「みる」には、「見る」「視る」「観る」といくつかの漢字を当てることができますが、ここでは作品の中の「光と影」に注目し、じっくり「視る」という行為と向き合います。
※ 8/6(火)~18(日)の期間、葛飾応為《夜桜美人図》を展示します。
- 髙山辰雄《白い襟のある》1980
- 星野真吾《鬼灯》1977
忘れてはならない影/見出される光
私たちの価値観やものの見方に大きな転換点をもたらした戦争。
そこには、大きな影を見ることも、小さな光を見ることもできるでしょう。
二度と経験することがあってはならないこの時代。芸術家たちが表現した戦中・戦後の「光と影」を見つめることで、現在の私たちの生きる意味を考え、明日への歩みにつなげます。
- ベルナール・ビュッフェ《石油ランプ》1951
- 国吉康雄《女は廃墟を歩く》1945~46
メナード美術館 初公開コレクション
パウル・クレー
《デモーニッシュなマリオネット》
制作年:1929年
形質:油彩・グワッシュ・水彩、麻布(厚紙に貼付)
サイズ:45.0×38.1cm
息子のために制作した総計50体にもなるパペットをはじめ、度々クレーの作品に登場する怪奇な人形たち。
そのはじまりは、街路などで演じられた人形劇の人形がもととなっているようです。そのためでしょうか、赤や青で簡潔に描かれた顔は、子どもの描いた絵のようなユーモラスさが感じられます。
しかし、この愛らしさに反し、黒い背景はどこか不気味な印象です。大恐慌、ナチ党の勢力増大…そんな時代背景の中で描かれた本作。闇に目を光らせる悪魔(デーモン)たちは何者で、彼らの瞳は何を見つめているのか。主題を表面的に受け取ることのできないクレーの重層的な作品構造が、そこには感じられます。
アレクサンダー・カルダー
《ゴルファー(ジョン・D・ロックフェラー)》
制作年:1927年頃
形質:針金・木
サイズ:18.8×42.0×h43.5cm
モビールという動く彫刻を新しく創作したことで知られるカルダーですが、初期の作品は、このような針金彫刻ではじまります。その多くは、スポーツ界などの著名人をモデルとしており、ユニークな造形も魅力ですが、どこか社会を風刺的に捉える側面もあります。
ゴルフをするアメリカの石油王、ジョン・D・ロックフェラーを表した本作もそのひとつ。当時、まだまだエリート階級のスポーツであったゴルフと富豪の組み合わせは、偏った富を暗示するもののようにも受け取れます。
一方で、これらの針金彫刻は、アメリカからパリに出てきたばかりのカルダーを経済的に助けるだけでなく、彼の名を広めるきっかけともなりました。それは後にロックフェラー家とも縁を繋ぎます。このように、カルダー自身にも富をもたらすものとなった本作は、「娯楽/労働」、「貧/富」、「玩具/芸術」と、さまざまな「光と影」を語ります。
Alexander Calder is known for his new creation of moving sculptures called mobiles, but his early work began with wire sculptures such as this. Many of them are modeled after famous people such athletes and, although the unique shapes are attractive, there is also an aspect of satire of some part of society. One of them is this work representing the American oil magnate John D. Rockefeller playing golf. The combination of a rich person and golf, which was still a sport for the wealthy at the time, can be perceived as suggesting a wealth bias. On the other hand, these wire sculptures not only financially helped Calder, who had just moved from the United States to Paris, but also helped spread his name. Later came the connection with the Rockefeller family. In this way, this work, which brought wealth to Calder, expresses “Leisure / Labor”, “Poor / Rich", “Toys / Art" and various "Light and Shadow".
宮崎進
《沈黙》
制作年:1960年頃
形質:石膏、蜜蝋
サイズ:20.4×22.6×h24.0cm
宮崎進が語るに、これは敗戦後、大陸でみた「原野に捨てられ泣きじゃくる幼子の頭部」だと言います。しかし、作品のどこか生々しく溶けるような表面と眠るような穏やかな表情、そして先の言葉の間には、「静/動」、「痛み/安らぎ」といった矛盾が感じられます。
出征先の満州で第二次世界大戦終戦を迎え、その後シベリアで4年間の抑留生活をおくった宮崎。その体験を通して感じた「絶望」と人間の「生きる力」が、「沈黙」でこそ語られるのではないでしょうか。
※ 展示内容は変更になる場合がございます。ご了承ください。