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今井龍満 アーティスト・トーク 2023年8月19日(土)開催

今井龍満氏
今井龍満氏

8/19(土)に開催した「今井龍満アーティスト・トーク」で語られた内容の一部を紹介します。

【vol.1】ポアリングについて、初期作品について 

Q. 画⾯の上から塗料を垂らすポアリングによる線が今井先⽣の作品の特徴ですが、なぜこの技法を選んだのですか。

ポアリングという⼿法⾃体はジャクソン・ポロックらが 1950年代に抽象画のスタイルに使っていたものですが、⽗(画家の今井俊満)も、晩年はがんで病気だったので絵筆を⻑時間持つことができなかったこともあり、そういうやり⽅(ポアリング)でコギャルを描いたりしていました。その頃⾃分はまだ画家になるつもりはなかったのですが、家で⽗の⼿伝いをしていて、たまたまその材料があったので暇つぶしに描いてみたら、筆とか鉛筆で描くよりも⾃分に合っているしおもしろいな、と初めて絵を描くことがおもしろいと思ったので、この技法を使うようになりました。

Q. ポロック等アメリカの抽象表現主義やフランスのアンフォルメルの作家達のポアリングと、今井先⽣のポアリングの違いはどのようなところにあるとお考えですか。

⾃分は動物など具象を描いていることが⼀番の違いだと思います。
ポロックや⽩髪⼀雄さんなどは、⾃分の⾝体を使って絵を描くことによって新しい芸術を作ろうということだったと思いますが、⾃分はそういう⾵にはあまり考えていません。単純に、この線を使って⾃分にしか描けない絵を描こうと思って、ポアリングを使い始めました。

Q. ⼀貫したポアリング表現の中でも今井先⽣の作品には様式の変遷があると思います。1999年の初期作(《Cat (White3)》など)で、すでにポアリングで動物を描くというスタイルの⽅向性がうかがえて、その後本格的に絵を描き始めた2008年頃の作品には、⼈物の作品が現れてきます。この頃に意識していたことはありますか?

大学生の時に父が亡くなり、その後自分は絵とは違う別の仕事をしていました。30歳になって結婚するタイミングで、やっぱり自営業をしたいと思い、自分は何ができるだろうと考えた時、今までなりたくないと思っていた画家しかないと思いました。たぶん画家になりたくなかったのは、父がかなり厳しい人だったからで、もし父が生きていたら自分はこの世界に入っていなかったと思います。でも父がいたからこの世界に入ったとも思います。
そんな時期に描いた作品で、この頃はこれから自分がどうなるか何もわからない状態でしたが、とにかく自分が今興味があることを描こうと思っていました。若い頃にいろんな人と遊んだり、ファッションに興味があったり、出版社で働いたりして、いろんな人と出会って友人も多かったので、今よりも人に興味があって、それで人の作品が多かったと思います。同世代のいきいきした若い人たちの絵を描いていました。

《Cat (White3)》1999
《Cat (White3)》1999
左から《Baby》2012、《Woman》
2009、《Woman》2009、《Man》
左から《Baby》2012、《Woman》2009、《Woman》2009、《Man》2009

【vol.2】⾊、技法のバリエーションについて 

Q. 2010年頃に作⾵が確⽴されてからの今井先⽣の作品は⾊使いもとても特徴的ですね。

実は最初は⾊は得意ではありませんでした。⾃分なりに勉強して、街で気に⼊った配⾊を⾒つけたり、きれいな柄の洋服の⾊を覚えておいたりしました。そうしているうちに、シャワー中や寝る前に⽬を閉じている時に、3、4⾊の組み合わせが勝⼿に浮かぶようになりました。それを頭の中にストックしたり、アイフォンに⾊をメモしたりしていました。

Q. 実際の作品は4⾊以上のたくさんの⾊が使われていますね。

《Lion》2014 (部分)
《Lion》2014 (部分)

作品を描く時は3、4⾊では全部を塗りきれないので、補⾊となる⾊を加えていくという感じです。例えば《Lion》で⾔うと、顔や⾝体の⻩⾊のところや⼤きいところはすぐに決まりましたが、たてがみの細かい部分は、⾊を決めるのに時間がかかりました。

《Jellyfish》2017
《Jellyfish》2017

Q. 2016年頃にはメディウムによる⾊のある線が使われたり、背景に⾊が使われる作品が現れます。なかでも《Jellyfish》は印象的な作品ですね。

これは、透明なメディウムに⽩いアクリル絵の具を⽔に薄めて流し込んで作る、⽇本画のたらしこみのような技法を使っています。

Q. 同時期に背景に箔が使われていますが、⽇本美術からの影響はあったりしますか。

⽗が京都出⾝で、琳派の作品を現代アートとしてカンヴァスに焼き直すというシリーズを⼀時期作っていたこともあり、⼦供の頃から京都のお寺で琳派の作品を⾒ていたのでそういう影響はあったと思います。⾃分は、琳派のコピーではなく、⾃分の絵柄とうまく合わせられないかと考え、やってみました。また、この頃からアシスタントを雇うようになり、そのアシスタントの美⼤⽣が箔を貼ることができる⼈だったというめぐり合わせもありました。

Q. 近年2020年に⼊ってからはマスキングメディウムという技法を⽤いていますよね。この技法についても教えてください。

左から《Hippo》2023、《Crow》2021、
《Eagle》2021、《Monkey》2016
左から《Hippo》2023、《Crow》2021、
《Eagle》2021、《Monkey》2016

実は前々からやってみたいと思っていた技法です。染⾊作家さんが糊を使ってやっているのを何かで⾒て、カンヴァスでもできないかと試しましたが、はじめはきれいにできませんでした。なんとかできないかと⾊々試して、ある素材を使うとできるということがわかり、ようやく始めることができました。

Q. 今回の展覧会では「⻄洋絵画名作選」として、メナード美術館のコレクションから⻄洋絵画15点を選定していただきました。選定に際し何か感じたことをお聞かせください。

ファイニンガー《プロポーズ》は、今回初めて⾒て、⼀⽬で好きになりました。装飾的な感じと、デフォルメのきいた⼈物が100年前の作品と思えません。
マティスは若い頃のとがった作品より、年をとってからの、⾃分の好きな絵を描くようになってからの作品が好きです。
リヒターは、⾃分が絵を描くようになる前から好きでした。川村記念美術館での展覧会を⾒た時に感動したのを覚えています。

【vol.3】制作のテーマについて、現在と今後について 

Q. 作品のテーマが「偶然」に⾄ったのはなぜですか。

⽗の世代の抽象作家も偶然性をテーマにして、偶然をコントロールして作品にしていたと思います。
⾃分の場合の偶然性は、⼀⾒失敗に⾒える線、描いた時は失敗かもと思った線が、後で効果的になったりする、ということだと考えています。それは、若い頃⾊々な仕事をしたり回り道をしてきて、そこから⾃分なりに得たものがあるという経験があるからだと思います。
偶然をコントロールするというのは⻄洋的な考え⽅で、偶然を肯定的に受け⼊れるのは東洋的な考え⽅なのかもしれません。⽇本⼈には農耕⽂化や気候⾵⼟からも、天変地異を受け⼊れるような考えがあると思います。⽗は20代から海外で暮らしていたので⻄洋的な考え⽅だったのかもしれませんが、⾃分は⽇本で育って東洋的な考え⽅なんだと思います。

Q. 偶然を受け⼊れるというのは、動物のいのちのありかたにも近いものがあるように思います。今井先⽣が動物をモチーフにしていることにもつながっているのでしょうか。先⽣は動物をどんな想いで描いていますか。

《3 Deer》2023
《3 Deer》2023

もしかしたら基本的には⼈物を描きたかったのかもしれません。
ポアリングの技法で⼈間を描いた時、間違った線が出すぎるとそれにひっぱられてしまうのでミスがしづらいんです。そうすると絵の勢いが失われてしまう。それで動物を描くことが多くなったんだと思います。実際は動物を擬⼈的に描いているのかもしれません。

Q. 今回の展覧会のための制作で感じたことはありますか。

大きい作品は身体全体を使って描くこともあり、ダイナミックな線が出ますし、無駄な線もたくさん出ます。そこがより自分のテーマと合っているし、描いていて楽しいです。一番楽しいのは、真っ白いカンヴァスに最初にペンキを垂らす瞬間です。
《Dragon》・龍は、自分が辰年生まれなので思い入れがあるモティーフです。今回、愛知県といえば中日ドラゴンズということもあって、この機会に《Dragon》を描くことにしました。龍は今後もライフワークとして描いていくと思います。

Q. 《Dragon》もそうですが、今回新しいことにたくさん挑戦されたと思います。あらためて今後の展望を教えてください。

《Dragon》2023
《Dragon》2023

今回の展覧会で、美術館での展⽰はとても楽しいと思いました。今後また機会がいただけたらいいなと思います。
この仕事を選んで良かったと思うのは、⽣涯現役プレーヤーでいられることだと思っているので、これからも成⻑しながらがんばっていきたいですね。
あとは、より多くの⼈に⾒ていただけることが幸せなので、海外も含め活動を続けていきたいです。だけどこれも偶然に左右されることで、⾃分のやれることをやってその時を待つということかなと思います。
まずは、⼤きい作品をもっと作りたいです。体⼒があるうちに精⼒的に作っておきたいです。

左から《Wild Boar》、《Squirrel》、《Eagle》、《Raccoon Dog》すべて2023年制作
左から《Wild Boar》、《Squirrel》、《Eagle》、《Raccoon Dog》
すべて2023年制作
《8 Hoses》2023
《8 Hoses》2023

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