ゴッホといえば《ひまわり》や《自画像》《糸杉》などを思い浮かべる。
ピストル自殺する少し前、1889年から90年にかけて、ゴッホは世間と絶縁した南仏サン=レミの精神病院でミレーやドラクロワなど巨匠の作品模写に励んでいる。先代の巨匠たちも多くの模写作品を残したように・・・・。しかし、かつて模写作品はそれが巨匠の作品とはいえ、その重要性をあまり認められなかった。「このように模写すれば、もうそれは模写じゃないんだ。」(1890.1.8「ゴッホからテオへの手紙」より)と言っているように、独自の絵画様式を駆使して模写すること、それはゴッホにとっても重要な制作活動の一部であった。当館の所蔵するゴッホの《一日の終り(ミレーによる)》もそのその内の1点である。
開館以来、この作品《一日の終り(ミレーによる)》は当館を訪れた多くの人に感動を与えてきた。ある人はこの作品を完全なゴッホのオリジナル作品として鑑賞している。またこの作品がミレーの同名作品の模写作品であることを知っている人でさえも、ゴッホ独特のタッチや色彩から、一瞬そのことを忘れてゴッホの世界に酔いしれているのである。彼らを惹き付けるもの、それは明らかにゴッホにしか表現できない強烈な個性に他ならない。それらの作品は模写作品でありながら完全にゴッホのオリジナル作品なのである。
1998年パリのオルセー美術館にて"ゴッホとミレー展"が開催された。同展はゴッホによるミレー作品の模写に焦点を当てた展覧会であり、日本で唯一ゴッホによるミレーの模写作品を所蔵する当館から、ゴッホ《一日の終り(ミレーによる)》が出品された。この様にゴッホの模写作品は、彼の画業を理解するうえで、大変重要なテーマとして、近年盛んに研究されている。
コルネリア・ホンブルク氏(現在、セントルイス美術館副館長)により1996年に書かれた本書は、ゴッホのその作品や思考のあり方への魅力的な探求へ我々をいざなうものであると同時に、19世紀末の模写一般に対する理解にも大きく役立つものである。
|